少女がこぼした。
「帰るところ、なくなっちゃった」
かぶったままのコートをぎゅっと握りしめた。痛みと強がりの混じった、か細い声だった。
家族の終わりを突然告げられる。何度も繰り返されてきた光景。ベテラン職員大庭英樹(52)が振り返る。「何回経験してもつらい。たまらんです」。眼鏡を上げ、両目尻を押さえた。
少女は父と2人で暮らしていた。幼児のころ、ここにやってきた。経済的困窮による養育困難。父が愛梨を預けた理由だった。
父は1~2カ月に1度、面会や行事で訪れた。愛梨はそのたび大はしゃぎした。「お父さん、大好き」。大型連休の後、父はぱったり来なくなった。何度連絡してもつながらなかった。
「お父さん、どうしてるかな」。愛梨は毎日尋ねた。小さな心と体は徐々に悲鳴を上げていった。髪を引っ張り、血がにじむまで爪で腕をひっかいた。
ある日、こども家庭センター(児童相談所)から連絡が入った。父は住居を移し、新しい家族を作っていた。事実を告げなければならない。
こんなことって。
辛すぎる。
どうして、こんなことになってしまうのだろうか。